株主優待とは企業が株主に対して、自社関連サービスなどを定期的に提供する制度です。無料サービス券や割引券などを多くの企業が提供しています。
欧米などではあまり普及していない一方で、日本ではかなり普及している点で独自の発展を遂げている制度です。
企業は各社競い合って優待内容の充実を図っているので、投資初心者の方は株主優待の内容を確認しておきましょう。株主優待は定期的に権利が与えられるため、長期で見ると金額に換算しても見過ごせない投資リターンを得ることができます。
目次
株主優待の3つのメリット
まずは、株主優待の3つのメリットについて見ていきます。
①堅実な投資リターン
株主としては株価が上がることが1番の希望ですが、株主優待のサービスでも金額換算で1%~2%程度還元する企業も多く、投資リターンとしては定期預金で銀行口座に資金を寝かせておくよりも投資の効率が良くなります。相場で取引をするだけが投資ではないということです。
②株主優待には税金がかからない
企業側の株主配分政策には株主優待のほかに配当金もありますが、配当金には税金がかかります(源泉徴収で20%程度)。一方、株主優待を受け取っても基本税金はかからないため、企業側のサービスをフルに利用することができます。株主に100%還元できるため、企業側にとっても還元策として効率的です。
③ファンを増やし安定株主をつくる
株主優待を実施すると長期で株を持ってくれる株主が増えるため、企業側としては安定した経営を実施できます。
短期的な結果を求める株主は長期的な業績向上には無関心で、そのような株主の意思が経営に悪影響を及ぼすことがあります。
極端に短期志向の株主は、重要な資産も売ってしまってみんなに分配せよ、というような圧力をかける場合もあります。
安定株主の存在は、そのような短期志向の株主が及ぼす悪影響から企業を守ってくれることになるのです。
株主優待の3つのデメリット
株主優待の3つのデメリットも紹介します。
①株主優待以上の株価下落の危険がある
株主としては株価も上がったうえで株主優待の権利を取りたいものです。ただ、株主優待が充実している株というのは大きく株価を上げることが少ないのが実情です。
というのも、株主優待が充実していれば、その株はすでに買い進まれていることが多いため、既に株が業績に比較してかなり高いところまで株価が上昇してしまっているのです。
また、株主優待が充実している会社は成長期を過ぎて安定期に入っているために成長分野の事業ではないことが多いのです。もし、成長中の事業を持っているのであれば株主優待ではなく、成長事業に資金を投じるのが企業経営としては正しいです。
成長事業を持っていない会社の株主優待は、将来的に株価が下降する危険があります。株主優待の内容だけでなく、今後の成長の核となる事業の有無を見極める必要があるのです。
②株主優待が続くとは限らない
株主優待は企業側の利益配分政策の一環でなされます。利益の出ない企業は株主優待を続ける余力がなくなるため、株主優待は廃止されます。個人投資家としては、毎年必ずもらえるものと思っていると痛い思いをします。
また、株主優待を取りやめたニュースが出ると株も売られ株価が下落します。株主優待が取りやめられると株価下落のダブルパンチが来ますので、いいことばかりではないのです。
株主優待の内容変更や廃止は取締役会の決議だけで可能です。株主が反対しようが合理的説明をすれば変更・廃止はまったく問題ないので注意が必要です。
③自社株買いの方が効率的
株主優待制度は海外では普及していません。株主還元策としては「自社株買い」の方が効率的だと考えられているからです。自社株買いは自社の株を市場などから買って消却してしまえば、その株の供給が抑えられるので株価は上昇します。
また、株主資本利益率(ROE)が改善しますので、効率的な経営を行っているということでも市場から評価されて株価が上昇します。
株価が上昇すれば短期投資家から長期投資家まですべての投資家にとって好ましい状況です。市場は長期投資家ばかりではありませんから、短期投資家も含めた全投資家にも喜ばれる自社株買いが海外ではよいとされているのです。
株主優待を受け取る場合の3つの注意点
株主優待を受け取る際の注意点が3つありますので紹介します。
①権利付き最終日がいつかが大事
株主優待を受け取るには、①権利確定日・②権利付き最終日・③権利落ち日という3つの日付を間違えないようにすることが必要です。
権利確定日:株主優待を受け取ることのできる権利が確定する日
権利付き最終日:権利確定日の3営業日前でこの日までに株を購入しておく必要のある日
権利落ち日:権利付き最終日の翌日(この日に買っても同月の権利は受け取れない)
たとえば、3月31日が権利確定日と企業側が指定していたとします。この場合、土日をはさまなければ、3営業日遡った3月28日までに株を購入していないと、3月31日の権利を受け取ることができません。3月29日に買っても、来期の株主優待の権利取得まで待つ必要があるのです。
②信用取引やNISAでの株主優待の有無
株主優待は現物株保有者であることが必要です。信用取引で買っていても株主優待の権利を得ることができません。
一方、NISAの口座と一般口座に分けて株を持っており、たとえば、イオン株をNISA口座に1000株、一般口座に2000株持っていた場合に優待の権利はどうなるでしょうか。
イオン株は3000株持っていると7%キャッシュバック(半期100万円が限度)されます。この場合には、名寄せされて3000株保有とされるので、7%キャッシュバックの権利が貰えます。NISAの枠を上手に使いながらの株主優待を得る戦略も必要です。
③優待サービスを受けるための単元数
多くの株主優待策は最低取引単位の1単元から権利をもらえることが多いのですが、単元数によってより多くの権利をもらうことができます。
前述のイオンの例で言えば100株(1単元)で3%のキャッシュバック、1000株(10単元)であれば7%ものキャッシュバックがなされます。
何単元持っているかが重要になるのですが、11単元以上買って10単元と同じ権利しかもらえませんので、注意が必要です。
クロス取引の活用で株価の影響なく株主優待GET
株主優待を狙って株主優待銘柄を購入した際、権利落ち後に株価が下落することがあります。株主優待で得られる特典以上に株価が下落すると、結果的に損をするはずです。もし、損をせずに株主優待を得たいのであれば、「クロス取引(つなぎ売り)」の活用により「株主優待タダ取り」を実現する必要があります。
クロス取引とは
クロス取引とは、現物取引である現物買いと、信用取引である信用売り(空売り)を組み合わせた投資手法です。現物買いと信用売りで出る損益を相殺することで、株価の影響を受けることなく株主優待を手に入れることができます。
たとえば、株主優待の権利付き最終日前に約定し、その後株価が下落したとします。株価が下落したので現物買いでは損失が出ますが、信用売りでは利益が出ることになります。損益は同額になるので、権利確定後の価格下落リスクを勘案することなく株主優待を得ることができるのです。
クロス取引を実施する方法
実際にクロス取引をするためには、株主優待の権利付き最終日の寄付き(※1)や引け(※2)の時に、信用売り注文と現物買い注文を「成行」で同数分発注します。
※1寄付き…当日に証券取引所が開いてから最初に行われる売買のこと。
※2引け…証券取引所の取引時間である前場、後場の最後の売買のこと。
クロス取引の注意点
損益が相殺され「株主優待タダ取り」が実現できるクロス取引ですが、手数料や賃株料、逆日歩、金利など証券会社へのコストがかかるところは通常の取引と変わりません。さらに、現物取引と信用取引をセットにしていますので、2倍以上のコストがかかる可能性があります。
ただ、株主優待獲得後の株価下落による損失は、証券会社に払うコスト以上のものです。リスクを抑えて株主優待を得るためには、クロス取引が最も良い方法でしょう。
株主優待が充実している銘柄
株主優待が充実しているのは飲食系や小売業界などが多いようです。特徴的で人気のある株主優待をまとめてみましたので参考にしてください。100株での株主優待での紹介ですので、株数によってはさらに優待がつく銘柄もあります。
銘柄 | 権利確定月 | 株主優待の内容 |
---|---|---|
日本マクドナルド | 6月・12月 | セットメニュー6枚分 |
イオン | 2月・2月 | オーナーズカード(100株で3%キャッシュバック) |
吉野家HD | 2月・8月 | 3000円分の無料食事券 |
カゴメ | 6月・12月 | 1000円分の自社商品詰合せ |
キリンHD | 12月 | 1000円相当の商品詰合せ等 |
ドトール | 2月 | 1000円相当のポイント |
オリエンタルランド | 3月・9月 | 年間1枚のワンデーパスポート |
上記は100株での株主優待ですので、200株、300株となると別途株主優待のランクアップがあります。イオンの場合、500株で4%のキャッシュバック、1000株で7%のキャッシュバックとなります。
長期で持っていると別の優待をつけてくれる会社もありますので、毎年かなりのリターンが見込める株式銘柄があることになります。
株主優待を目当てに株式投資するのはいいことか
株主優待で生活したい方もいらっしゃるので一概に否定できないですが、株主優待を目当てに株取引をするのはやめた方がいい、という結論に間違いはないと思います。
株式投資というのは企業の成長をサポートするためにするのが本来の役割です。つまり、成長途上で金融機関等から十分な資金が借りられなくても将来性十分の事業計画に資金を提供してあげるのが投資の本来の役割です。
もちろん、個人の資産運用という意味では毎期の配当金と株主優待は現状の定期預金を上回るリターンを計算できます。
しかし、その計算上のリターンも、たとえば株価が半分に下落したとすると取り返すのに何十年もかかってしまいます。株式投資はあくまでも取引する株価が重要なのであって、株価が市場の評価のすべてです。
株価の安いうちに買って高いときに売る、というサイクルを回して投資金額を回収しない限り、どんな投資手法でも意味がありません。
株主優待はあくまでもおまけと考えるべきで、「株主優待で生活をする」という夢は捨てるべきです。
株主優待で生活をしている方のサイトを確認してみれば分かると思いますが、生活が株主優待券に縛られています。窮屈な生活が嫌なのであれば、株主優待だけに頼るのではなく売買益も頭に入れて投資していく必要があります。