株式投資をしていると、利益を上げることばかりに気を取られ、つい見過ごしてしまいがちなのが「税金」です。
株式投資で得た利益には税金がかかります。税金は仕組みが複雑で分かりにくく、きちんと理解できている人は少ないですが、株式投資で出た損失をうまく利用すれば、税金を安く抑えることができます。
そこで今回は、税金についての知識を深め、「損益通算」で賢く節税する方法をご紹介します。
株式投資にかかる税金
まず、株式投資にかかる税金にはどんなものがあるか見てみましょう。
株式投資にかかる税金は、主に「譲渡益課税(キャピタルゲイン税)」と「配当課税」の2種類があります。
譲渡益課税(キャピタルゲイン税)
株式の売却で得た利益にかかる税金で、「申告分離課税」として他の所得と分けて課税されます。税率は20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)です。
配当課税
株式などの配当にかかる税金で、課税方法は「総合課税」「申告分離課税」「源泉徴収」から選択できます。一般的に配当課税は源泉徴収され、確定申告は不要です。
源泉徴収の場合の税率は、譲渡益課税と同じく20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)です。
2011年12月2日に「復興財源確保法」が施行されたことにより、2037年12月31日までの25年間に譲渡益・配当等の所得税額に対し2.1%の復興特別所得税が課せられることになりました。
また、2013年末に証券優遇税制が終了し、譲渡益・配当にかかる税率が10.147%から20.315%と2倍以上引き上げられるなど、株式投資にかかる税金は個人投資家にとって頭の痛い問題となっています。
損失と利益を相殺する「損失通算」
2008年度の税制改正で、2009年1月1日から株式の売却損と配当金を損益通算することができるようになりました。これにより、配当金を受け取る時に源泉徴収されていた税金の一部、または全部の還付を受けることができます。
たとえば、配当金が20万円ある場合、配当金にかかる税金は
20万円(配当金)×20%(源泉徴収)=4万円 となります。
(簡略化のため税率20%で計算)
もしこれ以外に株式の売却損が▲20万円あった場合には、配当金と相殺することにより、配当金から源泉徴収された4万円を取り戻すことができます。
20万円(配当金)-▲20万円(株式の売却損)=±0万円
株式以外にも、投資信託の売却損や投資信託の分配金についても損益通算することが可能です。
また、下記のように複数の証券口座にまたがって譲渡損益を損益通算することもできます。
A証券 | B証券 | C証券 | 実際の徴収額 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
株式譲渡所得 | 10万円 | ▲20万円 | – | – | ▲10万円 |
配当所得 | 10万円 | – | 20万円 | – | 30万円 |
合計 | 20万円 | ▲20万円 | 20万円 | – | 20万円 |
税額 | 4万円 | 0 | 4万円 | 8万円 | 4万円 |
(簡略化のため税率20%で計算)
A証券:株式譲渡益:10万円、配当:10万円
B証券:株式譲渡益:▲20万円、配当:なし
C証券:株式譲渡益:なし、配当:20万円
このケースの場合、徴収された税金は8万円ですが、損益通算すれば納税すべき金額は4万円となり、差額の4万円が還付されます。
損失は繰り越すこともできる
相殺しきれなかった株式の売却損は、翌年以降に繰り越すことが可能で、最大3年間繰り越すことができます。
たとえば、配当金が10万円ある場合、配当金にかかる税金は
10万円(配当金)×20%(源泉徴収)=2万円 となります。
(簡略化のため税率20%で計算)
これ以外に株式の売却損が▲50万円あった場合には、配当金と相殺することにより、配当金から源泉徴収された2万円を取り戻すことができます。
10万円(配当金)-▲50万円(株式の売却損)=▲40万円(損失)
さらに相殺しきれなかった▲40万円については、翌年以降に繰り越すことができ、最大3年間繰り越すことができます。
損益通算の手続き
では次に、損益通算の手続きについて見てみましょう。損益通算の手続きには、以下の書類が必要になります。
- 確定申告書
- 投資信託収益の分配支払通知書
- 配当支払通知書
- 特定口座年間取引報告書
株式投資で譲渡益がある場合、1年間の株と株式投資信託の損益を通算し、譲渡益が20万円を超える場合は確定申告が必要になりますが、利用している証券口座が「特定口座(源泉徴収あり)」であれば、証券会社が年間取引報告書を作成して源泉徴収もしてくれるため、確定申告をする必要がなく簡単に損益通算の手続きができます。
証券口座の種類は以下の通りです。
執行条件 | 概要 |
---|---|
特定口座:源泉徴収あり | 証券会社が「年間取引報告書」を作成し、株式投資の利益に対して証券会社が源泉徴収するため、確定申告をする必要はありません。 |
特定口座:源泉徴収なし | 証券会社が「年間取引報告書」を作成してくれますが、証券会社は源泉徴収しませんので確定申告をしなければなりません。 |
一般口座 | 証券会社が「年間取引報告書」を作成してくれませんので、1年間の損益を自分で計算して、確定申告しなければなりません。 |
ただし、複数の証券口座にまたがって譲渡損益を損益通算する場合には、自分で確定申告をしなければなりません。
損益通算の注意点
特定口座(源泉徴収あり)を利用すれば、すべての所得を損益通算できるわけではありません。ここでは損益通算をするにあたって注意すべきポイントについてご紹介します。
損益通算は「所得区分」「課税方式」が同じ商品のみ
株式以外にも、日経225先物や日経225ミニ取引、オプション取引についても損益通算は可能ですが、損益通算ができるのは「所得区分」「課税方式」が同じ商品でなければなりません。
たとえば、「日経225先物とオプション取引」や「日経225ミニ取引とFX取引」などは、「所得区分」「課税方式」が同一のため損益通算できますが、株式とは「所得区分」「課税方式」が異なるため、「株式と日経225先物」や「株式とオプション取引」などの損益通算はできません。
商品 | 区分 | 課税方法 | 確定申告 |
---|---|---|---|
日本株式 (ETF、REIT含む) |
譲渡所得 配当所得 |
申告分離課税 総合課税 |
要 |
米国株 | |||
投資信託 | |||
株価指数先物 | 雑所得 | 申告分離課税 | 要 |
株価指数オプション | |||
FX取引 | |||
国内債券 | 利子所得(利払い) | 申告分離課税 | 要 |
譲渡所得(譲渡時、償還時) | 総合課税 |
表に記載の通り、株の所得区分が「譲渡所得」や「配当所得」にあたるのに対し、日経225先物や日経225ミニ取引は、「雑所得」にあたります。
「配当控除」を受けると損益通算できない
配当所得がある人は、株の売却損との損益通算以外に「配当控除」を受けることができます。
配当控除とは、配当金を受け取った場合に、源泉徴収された所得税や住民税の控除(または還付)が受けられる制度のことです。
配当の課税方法は「総合課税」「申告分離課税」「源泉徴収」から選択できますが、配当控除を受けるには、「総合課税」で確定申告しなければならず、「申告分離課税」である株式の売却損との損益通算はできません。
NISA口座は損益通算の対象外
「NISA(ニーサ)」とは、2014年1月からスタートした少額投資非課税制度のことです。毎年120万円を上限(スタート当初は上限100万円)とする新規購入分を対象に、そこから得られた利益が最長5年間非課税となる制度ですが、NISA口座で損失が出ても、特定口座や一般口座の利益と損益通算することはできません。
NISA口座は投資元本120万円までの譲渡益や配当が無税になりますが、NISA口座の売買で生じた損失は「ないもの」とみなされるため、配当金や売買益などとの損益通算はできません。
一歩進んだ損益通算の使い方
NISA口座は損益通算の対象外ですが、NISA口座と特定口座を使い分けることによって手堅く株式投資することができます。
NISA口座は投資元本120万円までの譲渡益や配当が無税になりますが、損益通算はできないため、価格変動が大きく損失を出す可能性がある株式を組み入れて損失となっても、損益通算によるメリットを享受できません。
そこで、NISA口座では投資信託などリスクの少ない商品を組み入れ、特定口座では価格変動が大きく値上がりが期待できる株式を組み入れれば、NISA口座の無税のメリットも享受しつつ、特定口座でも利益獲得を狙えます。
もし損失となってしまっても、損益通算あるいは繰り越しすることによって節税に活用できます。
積極的な損失の活用を
本来、株式投資で損失を出すことはあまりうれしいことではありませんが、損益通算をすることによって損失をポジティブに捉えることができます。
これを機会に、損失を出すことを恐れて評価損を抱えたまま「塩漬け株」にするのをやめて、損失に対して前向きになって積極的に損失を活用してください。