現物取引について

株式投資の専門用語は普段聞きなれないものが多く、投資経験がない方には理解するのが難しいものばかりです。一方で、実際に取引を始める際には、正しい知識がないと戸惑うこともあるでしょうし、知らずにリスクをとりすぎる可能性もあります。株式投資のスタイルは大きく現物取引と信用取引の2種類に分類されます。ここでは、投資初心者のために現物取引の基礎知識について解説します。

現物取引は自分の資金だけでの取引

現物取引とは、投資家が自分の資金の範囲だけで行う株取引のことです。一般的に、証券会社で総合口座を開き、株を買おうとする場合、まずこの現物取引を利用することになります。別のいい方をすると、現物取引は先物取引などのデリバティブ取引や自分の資金以上で投資を行う信用取引ではない通常の株取引ともいえます。

株取引の世界では「現物」と呼ばれることが多く、将来において特定の商品の引き渡しと支払いを約束する「先渡し契約」も現物取引のひとつとして取り扱われています。なお、現物取引は広い意味で使われることもあり、株式以外に実物の取引を指す場合があります。たとえば、原油、金、小麦などの商品の取引があります。普通のお店で現金を支払い買い物するのも、ある意味では現物取引といっていいでしょう。

現物取引と信用取引の違い

日本株式という時々刻々と価格が変動する市場を利用し売買する点では、現物取引でも信用取引を利用するでも同じです。ある会社の株式を1株1,000円で購入できたとしても、次に買おうと思ったときに同じ価格で買えるわけではないといったルールは変わりません。
ただ、それぞれを比較した場合に様々な違いがあります。

現物 信用
手数料 高め 安め
上記以外のコスト なし 逆日歩や金利、貸株料などかかる場合もあり
最低必要額 なし 30万円
空売り 不可 可能
損失の上限 投資額まで 買いの場合は投資額まで、空売りの場合は青天井
期日の制限 なし 利用する種類によって制限あり
株主優待 受取可 受け取れない
NISA口座 利用可 利用不可

現物取引の5つのメリット

現物取引のメリットは、以下の5つに分けられます。

①簡単に取引をスタートできる

証券会社の個人口座を開設し、目当ての会社の株を買えるだけの金額を入金すれば誰でも取引をスタートできます。先物取引などのデリバティブ取引や信用取引の場合は契約前に審査があり、証券会社の条件をクリアできなければ取引ができないことがあります。一般的には、年収・資産・職業・投資経験などが審査項目となっていますが、現物取引の口座開設条件はそれほど厳しくありません。

②リスクは限定的である

投資である以上は現物取引にもリスクはつきものですが、信用取引やデリバティブ取引のように、投資した金額以上の損失が出ることはありません。株式を買った会社が倒産すると株式は紙切れ同然の無価値なものになるかもしれませんが、株式を購入するのにかかった金額以上の損失は出ません。その意味ではリスクは限定的であるといえます。

具体例で考えてみましょう。たとえば1株1,000円である会社の株式を500株買ったとすると、50万円を投資したことになります(なお、ここでは手数料は考慮していません)。もしその会社が経営不振に陥り倒産して株価が1円になったとしても、およそ50万円の損失となるだけです。

50万円近くが無駄になるのはショックかもしれませんが、自分が株式を現物で買うのに出したお金がなくなって終わりというだけです。それ以上のお金を請求や損失が発生することはありません。現物取引は、最大リスク量を自分でコントロールできるというわけです。

現物取引をしていれば、自分の投資した金額の範囲内でのみリスクを負うに過ぎないので安心して投資ができます。

③会社の株主になれる

現物取引においては実際に株式を買付けるため、自分の名義で会社の株券を保有することになります。以前は紙の株券が発行されていましたが、現在は券面が電子化され、自身が株主であることは証券会社の口座のデータと信託銀行の株主名簿上で確認するようになっています。出資した金額の多寡によりできることは変わってきますが、株主総会に参加できるなど、さまざまな権利を手にできます。

一方、信用取引を利用して株式の買建てを行っても、その株は自分の名義にならないため、株主になることはできません。

④株主優待を受け取れる

株主優待とは、企業が一定数以上の株式を一定期間保有していた株主に対して、その会社に関連する商品を提供する制度のことです。オリジナルグッズや割引券、優待券などが提供されます。これほど多くの会社が優待制度を導入しているのは日本だけで、この特典を目的に株式を購入・保有する人も多く存在します。

定められた株主の権利確定日(権利付き最終日)の大引け時点で株式を保有していれば、株主優待をもらう資格を手に入れられます。基本的には、企業の決算日の4営業日前です。これらの権利は、確定してしまいさえすれば、翌営業日以降にその株式を売却してしまっても有効です。

⑤配当金を受け取れる

株主優待と同じく、権利確定日時点で株式を保有していることで配当金を受け取ることができます。これは、会社が営業する中で稼ぎ出した利益を、決まった時期に株主に還元する制度です。会社の業績が良かった場合には、株主総会で承認を得た上で「1株あたり○円」というルールのもと、株主に対して支払われます。配当金は年2回支払われることが多く、時期は会社の第二四半期と本決算の時期です。会社によっては、年1回だけの支払いもあれば、年4回配当を出すところもあります。

配当金を受け取る方法は株主自身で選ぶことができます。証券会社のMRF(マネーリザーブファンド)で受け取るか、指定の銀行口座へ自動的に振り込んでもらうか、送付される領収書を期限内に金融機関へ持ち込むかの都合のいい方法を決算日までに指定しておく必要があります。

ちなみに、信用取引でも権利確定日をまたぐ場合は配当にかかわる動きが大いに関係してきます。買建てを行っていた場合は配当相当額を証券会社の口座で受け取ることができます。売建てをしていた場合にはその分を支払うことになるため、現金残高に注意しておく必要があります。

【具体例】
1株当たり10円の配当金で5,000株購入していた場合、10円×5,000株=5万円の配当金を受け取ることができます。

現物取引の3つのデメリット

現物取引のデメリットは、以下の3つに分けられます。

自分の資金以上の取引ができない

現物株式は自己資金のみで株券を購入するため、自己資金以上の取引はできません。そのため、自分の資金が少ない人は大きな金額の取引をすることができず、リターン(利益)は小さくなります。

一方で、株式投資には信用取引という自己資金以上の売買が可能な取引もあります。この取引では、証券会社に保証金を預け、その金額の最大で約3倍の株式の売買ができます。ただし、リターンが大きいだけリスクも高くなり、株価の値動きが予想通りにならないとあっという間に資金を失う危険性があります。

利益を得られる場面が限られる

現物取引を行おうとした場合、まずは株式を買うことから始めなければなりません。つまり、売買で利益を上げたいと考えた場合、「安いところで買って株価が上がってから売る」という選択しかないのです。

ですが、信用取引の場合は売りからスタートできる空売りを利用することができます。これは「高いところで売って、株価が下落し安いところで株を買い戻す」ことで利益が得られる方法です。現物取引の場合はこれができないため、株価が値下がりしている場面では、実現益を出すのは難しくなります。

現物取引だけの利用では、株式が上昇を始めるタイミングまで取引を待たなくてはなりません。投資において待つというのは難しいことで、これがなかなかできない人が多く、待つことができずに株式を買って含み損を出してしまう人もいます。

差金決済ができない

投資経験のない人でも「デイトレード」という言葉を聞いたことがあるかと思います。デイトレードとは、一日で何度も同じ銘柄の売買を繰り返し、損益の差額を決済する取引のことです。差金決済ともいい、現物取引では禁止されています。

現物取引では、一つの銘柄を売却して同じ日にまた買おうとした場合、売却代金とは別の資金を用意しなくてはなりません。他方、信用取引を使って一日で特定の株式を複数回にわたり売買することが認められています。実際に20万円分を買って21万円分を売った場合、差額の1万円だけを受け取る手続きになります。

そのため、デイトレードを行って単一の銘柄から利益を上げたいと考える場合、現物取引だけの利用だと資金効率が良くありません。

現物取引のみの投資の是非

現物取引だけでも問題なく株式投資を行うことは可能です。

ただ、投資する株式の保有期間をどうしたいかや、投じられる資金量によっては信用取引を併用したほうがいい場合もあります。

現物取引のみで成功する投資法

たとえば、会社を応援したいですとか、株主優待がほしいとかいった理由で株式を中長期投資する場合は、現物取引での株式の保有がベストの選択です。また、右肩上がりで株価が上昇するといった目論見で買いポジションを保有し続ける意向がある場合も、返済期日や金利等のコスト面を気にせずにいられるという理由で、同じく現物取引が向いているでしょう。

当たり前ですが、株数を増やせば増やすほど、その株の保有期間中の損益の額は大きくなります。初心者のうちや資金量、トレードする方の性格、銘柄の値動きの大きさなどによってはその変動に耐えられず、冷静な判断ができなくなり、余計な損を出してしまうことがあります。

トレードに投じる金額は、自分が冷静に相場を見極められる程度の資金量を把握してから増加させても遅くはありません。そういった意味では、初心者のうちは現物で、なるべく心理的負担が大きくない金額から取引をしていくことがおすすめです。

また、「信用取引では下落局面でも空売りで利益があげられるため、利益を上げられるチャンスが二倍」と聞くとメリットが大きいように感じますが、裏を返せば損失を出す機会も二倍になってしまうということを認識しておくべきでしょう。

現物取引と信用取引を併用するほうがいい場合

現物取引、信用取引ともに、1株1,000円で買った株式が1,500円に値上がりした後で売れば、500円の利益を得ることが可能です(なお、ここではわかりやすくするため手数料を計算していません)。

購入した株式の数が少なければそれほどの利益が出ませんが、株式の購入数が多くなれば、一度の取引で莫大な利益を得られる可能性が増えます。自信のあるトレードでは信用取引を使って、多くの株数を取引するという選択肢を考えてもよいかもしれません。

そして、相場はしばしば想定外の暴落を引き起こします。それに対抗するために、いつでも空売りのポジションを作れるように信用取引口座の開設を済ませておくのも一考です。

日経平均株価でいうと、2008年のリーマンショックでは、6月6日から10月27日までの間で50.6%、2011年3月15日の東日本大震災では1日だけで10.55%の下落率をたたき出しました。

現物取引の手数料は高めに設定されている

一般的に、どの証券会社でも現物取引よりも信用取引のほうが、手数料は安く設定されています。中長期で取引の手数が少ない場合、それほど影響は大きくないかもしれませんが、デイトレードをしようと考えている投資家はもちろん、数日から数週間ほどの期間でポジションを保有する手法であるスイングトレードを行う投資家も、手数料の影響を抑えたい場合は信用取引を活用すべきでしょう。

特に主要ネット証券であるSBI証券松井証券などはデイトレード限定の信用取引コースがあり、一度の取引の売買代金が一定以上の場合に金利・貸株料が無料です。カブドットコム証券でも、前月の建玉残高や新規約定代金によっては信用取引手数料が無料になったり、金利が優遇されたりというサービスがあります。

自分が株式投資に向ける資金量にとって有利な証券会社はどこか比較してから投資を始めることで、手数料の影響を減らすことができます。

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現物取引は初心者に安心の投資方法

現物取引の5つのメリットと3つのデメリットについて解説しました。現物取引はリスクが限定的で、投資初心者でも安心して取り組める投資方法です。まずは、現物取引で株の売買を行い、慣れてきてから、信用取引の利用も考えてみましょう。

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